オサマ・ビン・ラディン殺害作戦で、CIAは2010年9月までにビン・ラディンがパキスタン北西部のAbbottabadに家族と潜伏している可能性があると確証を得ていました。米欧各紙が報じているところです。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/may/02/how-osama-bin-laden-found
2010年10月には、それを裏付けるような形で(後知恵ですが)、「ビン・ラディンはパキスタン北西部の家屋で快適に暮らしている」というNATO関係者からの情報をCNNが報じていました。
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2767505/6342724
CNNは作戦成功の一報を特ダネとして報じていますから、素直に考えれば、オバマ政権内や軍、情報機関幹部に良い情報源が複数いるのでしょう。情報を得て、短時間で複数の情報源から裏付けをとり、更に取材を深めなければなりませんから。
NATOの軍事力やintelligence能力について、現実には米軍に頼り切りであると、Syracuse UniversityのRenee De Nevers助教授が明らかにしています。
"NATO's Internatinal Security Role in the Terrorist Era." 2007. International Security, 31(4)
De Nevers助教授は「NATO軍はその能力を高める努力をする一方、平和構築・維持活動に従事するのも新しい貢献の形だ」と指摘しています。いずれにせよ、ビンラディン潜伏情報は当時、CIAと米軍内で共有され、CNNが接触したNATO所属の米軍関係者にも伝わっていたのかもしれません。
逆に穿った見方をすれば、9/11の主謀者殺害を全世界にセンセーショナルに伝えるには、米国メディアの中でもCNNが最適だという狙いから、CNNにリークされたことも考えられます。
しかし、米国はビン・ラディン殺害に成功したことで、イスラム過激派や普通のイスラム教徒の対米感情悪化を避けたいはずですから、センセーショナリズムの仮説は妥当でないでしょう。実際、オバマ政権と軍の特殊チームは、イスラム教の教えにある程度則って、死亡から24時間以内に遺体を、海中ですが葬っています。
"Islamophobia", "Islamofascism"という言葉を生み出した前政権なら、大々的にアピールしたかもしれませんが、その点ではオバマ政権は慎重にしているように見えます。
以下のリンクは、作戦決定までの安全保障チーム、特に軍とCIAの協力に焦点を当てた記事です。記事には両社の協力が「(冷戦終結、ソ連崩壊後の)1990年代から活発になった」とありますが、両者は9/11直後のアフガニスタン侵攻でも密接に協力して作戦にあたってます。オペレーション現場でのやりとりを記した本を大学院で読んだのですが、肝心の書名を失念しました。探さねば。
http://jp.wsj.com/World/node_241215
2011年5月29日日曜日
2011年5月27日金曜日
The killing of Osama bin Laden
ビン・ラディン殺害のニュースを知ったのは期末課題のエッセイを執筆中の明け方でした。5月2日早朝は課題を放り出してずっとBBCの中継やビデオを眺めていました。その期末課題も全て終わり、ようやくこのテロ対策上最大の節目を振り返ることができます。
成功裏に終わった米国の作戦ですが、日本にとって最も注目すべきは、オバマ大統領が作戦実行を決断するまでに、国家安全保障会議"Natinal Security Council (NSC)" を4-5回開いたことだと思います。日本の新聞では、NSCのアジア担当部長が決まるたびに3面辺りで人事記事を掲載しています。マイケル・グリーン氏やビクター・チャ氏は同部長経験者として有名です。
NSCには米国の安全保障に関わる情報が大統領に報告され、方針を決める場です。このNSCを決断までに何度も開いて議論したということは、▽収集情報の発注▽情報収集▽分析▽情報の周知・共有▽分析▽発注者への報告--という"intelligence cycle"を繰り返した末の決断だったということです。intelligence cycleは安全保障で情報の講義で必ず習う基本中の基本です。現在ではビジネス・シーンでも応用されているようです。ビン・ラディンの潜伏情報は最後まで確証がなかった、と報じられていますから、NSCで議論と検討を重ねた上での大英断だったと推察されます。そのことは、複数の大統領に仕えた前国防長官ロバート・ゲーツ氏(元CIA)をして、「今まで見た大統領の決断の中で最も勇気ある素晴らしい意思決定だった」と言わしめています。
3月11日の東日本大震災発生直後から、混乱を続けている日本の菅政権の情報収集と分析、政策決定の過程はどうなっているのでしょうか。また、都合の悪い情報を"後出しジャンケン"のように発表すると非難されている東京電力は、intelligence cycleを機能させた上でそうしているのでしょうか。大震災後の混迷を遥か彼方、欧州の西端で耳にするにつれ、暗澹たる気分になります。
「殺害か捕獲」の命令を下したオバマ大統領でしたが、結局、ビン・ラディンは殺害され、海に沈められました。殺害命令はテロ対策の一つで"Targeted Killing"と英語では言います。Georgetown UniversityのDaniel Byman教授は、"Foreign Affairs"誌の2006年85(2)号に掲載された"Do Targeted Killings work?"という論文で、イスラエルの経験を根拠に基本的に反対の立場を表明、「殺害より逮捕が望ましい」としています。しかし「アフガニスタンやイラク、パキスタン、イエメンなど当該国の司法執行が機能していない所では、Targeted Killingは手段の一つになりうる」と述べています。現実に、米国の今回の作戦が国連などで問題視される一方、ビン・ラディンの潜伏をパキスタン当局が知っていたという憶測が飛び交っています。いずれにしろ、Byman教授にすれば今回の殺害作戦は許容範囲だということになるのでしょうか。是非伺ってみたい点です。
ビン・ラディンの死後、al Qaedaやイスラム過激派によるテロの行方に関する見方が各メディアで取り上げられていました。Paul R. Pillar教授は"Counterterrorism after Al Qaeda" (Washington Quarterly, 2004,27:3)と、"The diffusion of Terrorism" (Mediterranean Quarterly, 2010, 21:1)で、「ビン・ラディンが死んでもal Qaedaやイスラム過激派のテロはなくならない。なぜなら、過激派分子は既に世界中に伝播しており、al Qaedaはそのうちの一つのグループにしか過ぎない。テロがなくなることはない」と主張しています。Oxford UniversityのAudrey Kurth Cronin教授も"How al-Qaida Ends: The Decline and Demise of Terrorist Groups" (International Security, 2006, 31:1)で、同様の主張をしています。彼女はまた「al Qaedaは既に第四世代まで進化した」とし、「当初のビン・ラディンの掲げた思想や目標とは関係なく活動している面がある」と指摘しています。加えて、イスラム過激派の中にも、反西欧・文化の旗印のために活動するよりも、自分たちの組織存続のために組織的犯罪に走っているグループもあると述べています。
日本近辺で言えば、al QaedaとつながりがあるとされるJemaah Islamiahで有名なインドネシアでは、これまで認知されていなかった小規模グループや、lone wolfのテロリストによる事件が起きていると最近、報じられていました。フィリピンのMoro Islamic Liberation Frontは数年前に金目当ての組織犯罪集団に衣替えしたとされていますが、これらのグループは今後、どういう活動を起こすのでしょうか。特にインドネシアは天然資源に恵まれ、投資先としても有望なことから、経済活動の面でも情報収集と分析が欠かせません。
成功裏に終わった米国の作戦ですが、日本にとって最も注目すべきは、オバマ大統領が作戦実行を決断するまでに、国家安全保障会議"Natinal Security Council (NSC)" を4-5回開いたことだと思います。日本の新聞では、NSCのアジア担当部長が決まるたびに3面辺りで人事記事を掲載しています。マイケル・グリーン氏やビクター・チャ氏は同部長経験者として有名です。
NSCには米国の安全保障に関わる情報が大統領に報告され、方針を決める場です。このNSCを決断までに何度も開いて議論したということは、▽収集情報の発注▽情報収集▽分析▽情報の周知・共有▽分析▽発注者への報告--という"intelligence cycle"を繰り返した末の決断だったということです。intelligence cycleは安全保障で情報の講義で必ず習う基本中の基本です。現在ではビジネス・シーンでも応用されているようです。ビン・ラディンの潜伏情報は最後まで確証がなかった、と報じられていますから、NSCで議論と検討を重ねた上での大英断だったと推察されます。そのことは、複数の大統領に仕えた前国防長官ロバート・ゲーツ氏(元CIA)をして、「今まで見た大統領の決断の中で最も勇気ある素晴らしい意思決定だった」と言わしめています。
3月11日の東日本大震災発生直後から、混乱を続けている日本の菅政権の情報収集と分析、政策決定の過程はどうなっているのでしょうか。また、都合の悪い情報を"後出しジャンケン"のように発表すると非難されている東京電力は、intelligence cycleを機能させた上でそうしているのでしょうか。大震災後の混迷を遥か彼方、欧州の西端で耳にするにつれ、暗澹たる気分になります。
「殺害か捕獲」の命令を下したオバマ大統領でしたが、結局、ビン・ラディンは殺害され、海に沈められました。殺害命令はテロ対策の一つで"Targeted Killing"と英語では言います。Georgetown UniversityのDaniel Byman教授は、"Foreign Affairs"誌の2006年85(2)号に掲載された"Do Targeted Killings work?"という論文で、イスラエルの経験を根拠に基本的に反対の立場を表明、「殺害より逮捕が望ましい」としています。しかし「アフガニスタンやイラク、パキスタン、イエメンなど当該国の司法執行が機能していない所では、Targeted Killingは手段の一つになりうる」と述べています。現実に、米国の今回の作戦が国連などで問題視される一方、ビン・ラディンの潜伏をパキスタン当局が知っていたという憶測が飛び交っています。いずれにしろ、Byman教授にすれば今回の殺害作戦は許容範囲だということになるのでしょうか。是非伺ってみたい点です。
ビン・ラディンの死後、al Qaedaやイスラム過激派によるテロの行方に関する見方が各メディアで取り上げられていました。Paul R. Pillar教授は"Counterterrorism after Al Qaeda" (Washington Quarterly, 2004,27:3)と、"The diffusion of Terrorism" (Mediterranean Quarterly, 2010, 21:1)で、「ビン・ラディンが死んでもal Qaedaやイスラム過激派のテロはなくならない。なぜなら、過激派分子は既に世界中に伝播しており、al Qaedaはそのうちの一つのグループにしか過ぎない。テロがなくなることはない」と主張しています。Oxford UniversityのAudrey Kurth Cronin教授も"How al-Qaida Ends: The Decline and Demise of Terrorist Groups" (International Security, 2006, 31:1)で、同様の主張をしています。彼女はまた「al Qaedaは既に第四世代まで進化した」とし、「当初のビン・ラディンの掲げた思想や目標とは関係なく活動している面がある」と指摘しています。加えて、イスラム過激派の中にも、反西欧・文化の旗印のために活動するよりも、自分たちの組織存続のために組織的犯罪に走っているグループもあると述べています。
日本近辺で言えば、al QaedaとつながりがあるとされるJemaah Islamiahで有名なインドネシアでは、これまで認知されていなかった小規模グループや、lone wolfのテロリストによる事件が起きていると最近、報じられていました。フィリピンのMoro Islamic Liberation Frontは数年前に金目当ての組織犯罪集団に衣替えしたとされていますが、これらのグループは今後、どういう活動を起こすのでしょうか。特にインドネシアは天然資源に恵まれ、投資先としても有望なことから、経済活動の面でも情報収集と分析が欠かせません。
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