サード・パーティー・スクリーニングとバックグラウンド・チェックの重要性について、付記したいと思います。これらをまとめて、「デュー・デリジェンス」"Due Diligence"と言いますが、グローバル化、人材の国際化・流動化が進む企業活動においても、その重要性は高まっています。
今年、アルジェリアで起こったテロによって日揮のプロジェクトに携わっていた日本人ら10人が犠牲になった事件は記憶に新しいでしょう。日本での報道では、Al Qaida Islamic Magreb(AQIM)に注目が集まりがちでしたが、このテロリストグループによる襲撃の鍵の一つは、プロジェクトの出入り業者の一つだったアルジェリアの国営水素公社にありました。というのも、犯行グループの親戚がこの公社に勤めていたとされ、彼らを通じて、プラント現場の施設等内部情報が犯行グループにもたらされていた疑いがあったからです。
「アルジェリアの治安当局は9日までに、日本人10人を含む多数の外国人が犠牲となった人質事件で犯行グループに協力した疑いがあるとして、国営炭化水素公社(ソナトラック)の従業員10人を逮捕した。地元紙アンナハルが同日、報じた。
10人は、同国の砂漠地帯にある外国石油企業施設などの地図や内部情報を犯行グループに提供。南部の他の施設に対するテロの計画もあったと供述しているという。
10人は、人質事件が起きた南東部イナメナスのガス田施設とは別の拠点で勤務していたが、うち1人の親族6人が事件現場施設で働いていた。」(以下、略。共同通信 2013年2月9日配信)
この記事を読む限り、逮捕された10人のうち、1人の親族から、プラント現場の情報が漏洩していた可能性があります。そして、プロジェクトに関わる関係会社、サード・パーティーのデュー・デリジェンスが重要であることが、教訓の一つとしてえられると言えます。ただし後知恵の指摘と言われてしまう面もあることは否定しません。現実に、炭化水素公社従業員の一人一人のバックグラウンドについて、テロリストと関係があるか否かをチェックするのは手間もコストも時間もかかる至難の作業であることは想像に難くありませんから。それでも、国外の様々な企業と手を組んで事業をするのが当たり前のグローバル経済において、取引先のデュー・デリジェンスはおろそかにできません。
サード・パーティー・スクリーニングは企業間取引における、腐敗・汚職のリスクを防止する狙いもあります。企業同士で事業を受発注する過程において、担当者や企業幹部同士で、例えば発注価格の何パーセントをキックバックするという不正事案は現実にあります。そのキックバックをする相手先が政治家や公務員だった場合、立派な汚職となります。米国のFCPA、英国のUK Bribery Actといった汚職防止法の広まりにより、汚職が発覚した際に企業側が受けるペナルティーは莫大なものとなります。
また、サード・パーティーの中には、外国政府・情報機関の指示の下、企業活動をしている組織もあるかもしれません。経済スパイです。外国政府・情報機関の意を受けた企業、あるいは企業人は、企業活動の傍ら、人的ネットワークを広げ、協力者をつくり、事業提携や入札を通じて、情報収集の対象に迫っていることが考えられるでしょう。そうした活動から、国の安全保障や政策に関わる機密情報等が漏れてしまうと、リスクは当該企業と関係を有した企業のみならず、産業、そして国家にも及ぶリスクになりえます。そうした企業、産業に携わる人々の家族も、直接・間接の不利益を被ることも想定しておかなければなりません。
このように、サード・パーティー・スクリーニングは、テロや突発的な事件に備えるだけでなく、汚職・腐敗防止、経済活動におけるカウンター・インテリジェンスの上でも必要不可欠なリスク対策の一つなのです。
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