2010年11月6日土曜日

Ripeness theory and intelligence

第1学期中間期の課題が本格化しています。国立ダブリン・シティ大学では、11月1日~7日まで"Reading Week"で、この間に日頃の遅れを取り戻し、エッセイの準備・執筆に充てます。先ほど、必修科目である"Resolving & Managing Conflict"のエッセイ2500語を書き終えました。Collierの"Greed or grievance"理論を取り上げた講義ですが、私が選んだ問題は「Zartmanの"Ripeness Theory"の強みと弱みについて紛争事例二つに当てはめて論じよ」というものです。

Ripeness Theoryとは、紛争介入・仲介において、"Mutual Hurting Stalemate""A Valid Spokesperson""a Way Out"を的確につかむことが和平交渉成功につながるとする理論です。簡単に説明すれば、「紛争当事者双方が、これ以上戦っても勝利は見込めないという状態の時に、自陣の状況を適切に伝えられる代表者を通じて話し合いを続け、機が熟した時、すなわちRipe Momentに交渉合意へ達する」とする必須条件を理論化したものです。

講義で必須論文だったUniversity of WolverhamptonのEamonn O'kane博士は北アイルランド紛争を例に、Ripeness Theoryには無理があると反論しています。すなわち、「HMSには1998年のGood Friday Agreement以前、90年代前半に達していた」「Zartmanの理論は一対一の紛争に当てはめられており、英国政府、Unionist、アイルランド政府、Sinn Fein、IRAと当事者が入り乱れた北アイルランド紛争で Valid Spokespersonを見出すのは困難である」などが論拠です。

私は課題エッセイの中で北アイルランド紛争を取り上げ、O'kane博士に反論しています。これまでに読んだChristopher Andrew博士の"The Defense of the Realm"には、一旦停戦を宣言したPIRAが1996年に英国でのテロ活動を再開させ、人的・経済的打撃を与えた一方、MI5をはじめとする英国側はロンドン地域のエネルギー施設破壊を狙ったテロを阻止し、PIRAの主要メンバーを逮捕しました。

しかも、MI5側はPIRAを徹底的に壊滅した、できた訳ではありません。むしろ、当時のメージャー内閣にアイルランド側との停戦へ向けた下準備を進めるよう進言しています。主要メンバーを逮捕され追い詰められたPIRAと、損害を被りつつ更なるテロを防いだMI5。結果は1997年のPIRAによる再度の停戦宣言と、翌1998年のGFAにつながっていきます。私は、1997年のこの時期が北アイルランドにおけるMHSであり、Ripeness Theoryの欠陥を補完して最終的な停戦合意へ導くのは、客観的な事象と証拠を分析し検討するintelligenceだ」と結論づけました。

Collier博士もそうでしたが、Ripeness Theoryを唱えたJohn's Hopkins University, SAISのWilliam Zartman教授もアカデミズム一筋の専門家です。まだ勉強を始めたばかりなので紛争介入・解決に明るくないですが、この分野でintelligenceの実務家出身の学者はほとんど目にしません。元CIAの分析官でGeorgetown, SSP教授のPaul Pillar博士の名前を教科書をで読んだくらいです。余談ですが、フルブライト客員研究中に、Pillar博士の「テロリズムとテロ対策」を受講しましたが、今振り返れば当時の無知と無学が残念でなりません。

日本政府が国連のPKOに自衛隊と警察官を派遣してしばらくが経ちますが、ロジスティックや警察訓練、金銭負担をするばかりでなく、intelligence活動、つまり派遣相手国・地域の情報収集と分析活動に力を入れてもいいと考えます。私は政治部記者ではないので、ひょっとしたら「すでに行っている」と批判されるかもしれませんが、取材結果や報道を見る限り、そうした実態は耳にしませんでした。覇権的な武力や絶対的な経済力がなくても、紛争解決のための道筋を提示できる能力のある国ならば、各国から尊敬されると思うのですが、理想論にすぎないでしょうか。

William Zartman
http://www.sais-jhu.edu/faculty/directory/bios/z/zartman.htm
Eamonn O'kane
http://www.wlv.ac.uk/default.aspx?page=15983
Paul Pillar
http://explore.georgetown.edu/people/prp8/

日本で無学だったために、Ripeness Theoryの"Mutual Hurting Stalemate""Valid Spokesperson""a Way Out"の学術的な日本語訳が分かりません。ご存知の方、こっそり教えて頂けると幸いです。

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