2010年12月2日木曜日

European Union's Homeland Security Challenge

11月末に修士論文研究テーマのプレゼンテーションを終えました。表題の通りEU圏内安全保障政策についてで、米国留学時から続けているマネーロンダリング・テロ資金供与対策(Anti-Money Laundering/Countering Financing of Terrorism, AML/CFT)に焦点を当てて比較分析します。比較対象は北アイルランドとバルカン半島国、おそらくボスニア・ヘルツェゴビナになろうかと思いますが、そこは近く指導教官に相談して決めたいと思っています。

1990年頃から現在まで、世界のAML/CFTはG-7を中心とする政府間組織Financial Action Task Force (FATF)を中心に発展、各国に対策を促してきました。

http://www.fatf-gafi.org/pages/0,3417,en_32250379_32235720_1_1_1_1_1,00.html

FATF加盟国・地域は現在36で、日本と英国は1990年から、アイルランドは1991年からメンバーです。当初は麻薬取引などによる犯罪収益対策が中心でしたが、2001年の米国同時多発テロ以降、テロリスト資金供与対策にも対象を拡大させ発展。加盟国・地域に求める対策は"Recommendation 40 + 9"という勧告にまとめられています。

他方、FATF加盟国以外の地域にもAMF/CFT対策を施すために、地域組織が各国により設立されています。それらをまとめて、FATF-Style Regional Bodies (FSRBs)と呼んだりするのですが、その一つに欧州評議会によるMONEYVALというのがあります。

http://www.coe.int/t/dghl/monitoring/moneyval/

ボスニア・ヘルツェゴビナやセルビアなどバルカン諸国はMONEYVALの加盟国で、欧州評議会によりFATF Recommendation 40+9の履行状況をチェックされています。

所属組織だけでなく歴史的、社会的背景は全く異なるものの、同じ国際ルールに則ってAML/CFT対策を進める南北アイルランドとバルカン諸国。この二地域を比較分析しようというのです。現段階では両者がAML/CFT対策を始めた年から現在までにおけるマネロン犯罪の検挙件数や、差押え金額などの統計をまとめ、報道された主だった事件を分析しながら、政策効果や国際的組織犯罪、テロ資金ネットワークを解明しよう(そこまでできるか分かりませんが、目標として)と考えています。

研究を始めるにあたり仮説としたいのは、AML/CFTの共通ルール履行も大切だが、対象国によっては地域特性を考慮した特別ルールが必要で、今後はそこに重点をおくべきではないか。

例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナを例に挙げると、国際社会監督による平和構築が進んでいますが、同国内で蔓延していた汚職や組織犯罪は根絶されていません。過去に、ボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人地域スプルスカ共和国軍が、イラクに軍事援助をしていた事実が明らかにされています。平和構築においても、欧米諸国・西側の価値観で推し進めるのではなく、貧困や失業などその国の社会的要因を考慮しなければならないと指摘されています。同じことがAML/CFT対策にも言えるのではと考える訳です。

Reference: Corpora, Christopher A. "The untouchables: Former Yugoslavia's clandestine poitical ecnomy", Pugh, Michael. "Rubbing salt into war wounds: Shadow economies and peacebuilding in Bosnia and Kosovo", Problems of Post-Communism, 51(3), May/June 2004

日本に置き換えて考えると、日本政府はFATF勧告履行を進めるべく、警察庁が中心となって業界指導にあたっています。FATF勧告の肝は、金融機関・業界をはじめ、不動産、宝飾品業界など幅広い分野における顧客情報管理、疑わしい取引の報告と記録保存を義務付けていることにあります。例えば、銀座の高級ブランド店で、100万円の宝石をプレゼント用に買ったら、購入者の個人情報と購入記録は店に保存され、何か事があった場合、その情報は当局に報告されることになります。

廉価で購入できる金やダイヤモンドの産出国ならいざ知らず、輸入代理販売がほとんどの日本の宝飾品業界にも同じ義務履行を求めることにどれだけの意味があるのでしょうか。仕入れ価格が高くつく分、それを売却するロンダリングのうまみは少ないはず。むしろ、暴力団がしばしばペーパーカンパニーを使って売買・投資収益を上げている不動産業界に義務履行の徹底と情報収集協力を求めるべきでは。それが地域特性を考慮した対策だと考えます。

ボスニアやセルビアを比較分析の対象とするのは、両国が将来のEU加盟を目標にしているからです。また、以前も書きましたが、近年ボスニアには中東、中近東、アフリカなどからイスラム教徒の流入し続けており、テロ組織との結びつきなど社会の不安定化が懸念されています。その状況下、EU Homeland Securityはいかに追求されるべきかを考察するのが修士論文の目的です。

ボスニアやセルビアについて調べる際、セルボ・クロアチア語の壁にぶち当たるのは目に見えているので、フルブライト・ネットワークを駆使して、協力・助言を求めにサラエボ大学やベオグラード大学の教授を訪ねようと考えています。以下は、今後参考にしたい本や政府機関のリンクです。

学科長のJohn Doyle博士が編集した北アイルランドの治安対策に関する論文集
http://www.ria.ie/Publications/Books/History/Policing-the-Narrow-Ground--Lessons-from-the-Trans.aspx
北アイルランド警察
http://www.psni.police.uk/
ボスニア・ヘルツェゴビナの高等代表
http://www.ohr.int/

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