2013年8月5日月曜日

蓮池薫さんの北朝鮮分析

先日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による拉致被害者である蓮池薫さんのお話を聞く機会に恵まれました。1978年に拉致され、2002年に帰国を果たすまでの北朝鮮での生活と状況を冷静に詳細に、時にはユーモアも交えながら語ってくれました。帰国から10年余りの間で蓮池さんが執筆した本などで、拉致の状況から生活の様子は多く語られていることと思います。以下では、蓮池さんによる現在の北朝鮮に関する分析について、メモしておきます。

  • 蓮池さんは拉致後から北朝鮮の工作員に日本語を教えていたと言います。しかし、1987年に大韓航空機爆破事件が発覚してからは、日本の新聞(朝日、毎日等)、週刊誌、月刊誌の掲載されていた政治や経済、軍事などに関する記事を翻訳していたということです。

    • キム・ヒョンヒ元死刑囚の証言等によれば、田口八重子さんも工作員教育に従事していたとされます。他の、まだ帰国が果たせない拉致被害者の日本人はどのような業務に従事し、役割を果たしているのでしょうか?

  • 北朝鮮国民の金日成に対する支持を100%とすると、金正日は70%、金正恩は30%程度の支持率といいます。1994年から95年にかけての食糧危機が北朝鮮における転換期だったと指摘されます。というのは、それまでの食物配給制が食糧危機により廃止されたことで、人心が国から離れ出したからです。

  • 2009年に北朝鮮がデノミをした際、北朝鮮は国民に金正恩の名前で「配慮金」を支給しました。その時には既に、北朝鮮が金正日の後継者を金正恩とし、国民に知らしめておこうとの意図があったと考えられるということです。

  • 北朝鮮という国と、北朝鮮国民という人は分けて見る必要がある、両社は別物というのが、蓮池さんの考えです。国同士の交渉と、民間人同士の交流、例えば学術交流などは別ということを意味するのでしょう。

    • ただし、民間人を装った政府・情報機関関係者が活動することは、北朝鮮に限らないことです。たとえ民間といえども、"国際交流"を手放しで歓迎することにリスクはあるのではないでしょうか。

  • 六カ国協議の枠組みでは、主に核開発、ミサイル問題が交渉の主要テーマであり、拉致問題はなかなか中心議題にはなりえません。六カ国協議による交渉再開を目指しながら、日朝間の問題解決を図る二国間協議も並行して進めるべきだ、ということです。

2013年8月4日日曜日

米国愛国者法と議会の判断

ロシアへの亡命が認められたスノーデン氏が改めて浮かび上がらせた情報収集とプライバシーの問題。先日、読売新聞で下記のような短い記事を見つけました。

「【ワシントン=山口香子】米下院本会議は24日、国家安全保障局(NSA)による電話の通話記録の入手ができないようにする内容の改正法案を反対217、賛成205で否決した。オバマ政権や民主、共和両党指導部がどう法案への反対姿勢を明確にしていたにもかかわらず、賛成票が想定以上に集まり、「想像をはるかに超える僅差」(米紙ニューヨーク・タイムズ)での否決となった。与野党を問わず、議員の間で情報監視への懸念が広まっていることが示された。」(以下、略。読売新聞、2013年7月25日)

この法案で対象となっていたのは、米国愛国者法215条とみられます。"Access to Records and Other Items Under the Foreign Intelligence Surveillance Act."という見出しが付けられた条文で、裁判所の命令があれば、"any tangible things"(あらゆる実体のある、具体的なもの。非常に抽象的な表現で、上手く訳せないのが悔しいです。)を収集することができると定めています。

読売が報じたように、提出された法案に対する米下院議員の賛否の判断はほぼ真っ二つに割れました。否決後、AP通信やワシントン・ポストは、下院議員の賛否に関する意見を伝えています。

翻って、安倍政権がインテリジェンス能力を強化しようとしている日本において、情報収集能力を強化するとはどういうことなのか、どのようなメリット・デメリット、ベネフィット・リスクがあるのか、という議論が盛り上がらないのは非常に残念と言わざるをえません。対岸の火事ではないはずです。

米国留学時に受け入れ先研究所の所長から、「愛国者法と国土安全保障政策について学ぶなら、この本が良い」と紹介されたのが、

David Cole & Jules Lobel,  "Less Safe Less Free" 2007. The New Press, New York

David Cole先生は当時、ジョージタウン大学ロー・スクールで教えていたこともあり、都心部にあるキャンパス"ロー・センター”へお話を聞きにいきました。そしてご本人から、テロ対策の強化と基本的人権に関する著書としてご紹介頂いたのが、

David Cole, "Enemy Aliens" 2003. The New Press, New York

今回の問題を機に、これら2冊を久しぶりにじっくり読もうと書棚から出してきたのですが、なかなか読めていません。

Third Party ScreeningとBackground Check

サード・パーティー・スクリーニングとバックグラウンド・チェックの重要性について、付記したいと思います。これらをまとめて、「デュー・デリジェンス」"Due Diligence"と言いますが、グローバル化、人材の国際化・流動化が進む企業活動においても、その重要性は高まっています。

今年、アルジェリアで起こったテロによって日揮のプロジェクトに携わっていた日本人ら10人が犠牲になった事件は記憶に新しいでしょう。日本での報道では、Al Qaida Islamic Magreb(AQIM)に注目が集まりがちでしたが、このテロリストグループによる襲撃の鍵の一つは、プロジェクトの出入り業者の一つだったアルジェリアの国営水素公社にありました。というのも、犯行グループの親戚がこの公社に勤めていたとされ、彼らを通じて、プラント現場の施設等内部情報が犯行グループにもたらされていた疑いがあったからです。

「アルジェリアの治安当局は9日までに、日本人10人を含む多数の外国人が犠牲となった人質事件で犯行グループに協力した疑いがあるとして、国営炭化水素公社(ソナトラック)の従業員10人を逮捕した。地元紙アンナハルが同日、報じた。
10人は、同国の砂漠地帯にある外国石油企業施設などの地図や内部情報を犯行グループに提供。南部の他の施設に対するテロの計画もあったと供述しているという。
10人は、人質事件が起きた南東部イナメナスのガス田施設とは別の拠点で勤務していたが、うち1人の親族6人が事件現場施設で働いていた。」(以下、略。共同通信 2013年2月9日配信)

この記事を読む限り、逮捕された10人のうち、1人の親族から、プラント現場の情報が漏洩していた可能性があります。そして、プロジェクトに関わる関係会社、サード・パーティーのデュー・デリジェンスが重要であることが、教訓の一つとしてえられると言えます。ただし後知恵の指摘と言われてしまう面もあることは否定しません。現実に、炭化水素公社従業員の一人一人のバックグラウンドについて、テロリストと関係があるか否かをチェックするのは手間もコストも時間もかかる至難の作業であることは想像に難くありませんから。それでも、国外の様々な企業と手を組んで事業をするのが当たり前のグローバル経済において、取引先のデュー・デリジェンスはおろそかにできません。

サード・パーティー・スクリーニングは企業間取引における、腐敗・汚職のリスクを防止する狙いもあります。企業同士で事業を受発注する過程において、担当者や企業幹部同士で、例えば発注価格の何パーセントをキックバックするという不正事案は現実にあります。そのキックバックをする相手先が政治家や公務員だった場合、立派な汚職となります。米国のFCPA、英国のUK Bribery Actといった汚職防止法の広まりにより、汚職が発覚した際に企業側が受けるペナルティーは莫大なものとなります。

また、サード・パーティーの中には、外国政府・情報機関の指示の下、企業活動をしている組織もあるかもしれません。経済スパイです。外国政府・情報機関の意を受けた企業、あるいは企業人は、企業活動の傍ら、人的ネットワークを広げ、協力者をつくり、事業提携や入札を通じて、情報収集の対象に迫っていることが考えられるでしょう。そうした活動から、国の安全保障や政策に関わる機密情報等が漏れてしまうと、リスクは当該企業と関係を有した企業のみならず、産業、そして国家にも及ぶリスクになりえます。そうした企業、産業に携わる人々の家族も、直接・間接の不利益を被ることも想定しておかなければなりません。

このように、サード・パーティー・スクリーニングは、テロや突発的な事件に備えるだけでなく、汚職・腐敗防止、経済活動におけるカウンター・インテリジェンスの上でも必要不可欠なリスク対策の一つなのです。