2010年12月2日木曜日

European Union's Homeland Security Challenge

11月末に修士論文研究テーマのプレゼンテーションを終えました。表題の通りEU圏内安全保障政策についてで、米国留学時から続けているマネーロンダリング・テロ資金供与対策(Anti-Money Laundering/Countering Financing of Terrorism, AML/CFT)に焦点を当てて比較分析します。比較対象は北アイルランドとバルカン半島国、おそらくボスニア・ヘルツェゴビナになろうかと思いますが、そこは近く指導教官に相談して決めたいと思っています。

1990年頃から現在まで、世界のAML/CFTはG-7を中心とする政府間組織Financial Action Task Force (FATF)を中心に発展、各国に対策を促してきました。

http://www.fatf-gafi.org/pages/0,3417,en_32250379_32235720_1_1_1_1_1,00.html

FATF加盟国・地域は現在36で、日本と英国は1990年から、アイルランドは1991年からメンバーです。当初は麻薬取引などによる犯罪収益対策が中心でしたが、2001年の米国同時多発テロ以降、テロリスト資金供与対策にも対象を拡大させ発展。加盟国・地域に求める対策は"Recommendation 40 + 9"という勧告にまとめられています。

他方、FATF加盟国以外の地域にもAMF/CFT対策を施すために、地域組織が各国により設立されています。それらをまとめて、FATF-Style Regional Bodies (FSRBs)と呼んだりするのですが、その一つに欧州評議会によるMONEYVALというのがあります。

http://www.coe.int/t/dghl/monitoring/moneyval/

ボスニア・ヘルツェゴビナやセルビアなどバルカン諸国はMONEYVALの加盟国で、欧州評議会によりFATF Recommendation 40+9の履行状況をチェックされています。

所属組織だけでなく歴史的、社会的背景は全く異なるものの、同じ国際ルールに則ってAML/CFT対策を進める南北アイルランドとバルカン諸国。この二地域を比較分析しようというのです。現段階では両者がAML/CFT対策を始めた年から現在までにおけるマネロン犯罪の検挙件数や、差押え金額などの統計をまとめ、報道された主だった事件を分析しながら、政策効果や国際的組織犯罪、テロ資金ネットワークを解明しよう(そこまでできるか分かりませんが、目標として)と考えています。

研究を始めるにあたり仮説としたいのは、AML/CFTの共通ルール履行も大切だが、対象国によっては地域特性を考慮した特別ルールが必要で、今後はそこに重点をおくべきではないか。

例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナを例に挙げると、国際社会監督による平和構築が進んでいますが、同国内で蔓延していた汚職や組織犯罪は根絶されていません。過去に、ボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人地域スプルスカ共和国軍が、イラクに軍事援助をしていた事実が明らかにされています。平和構築においても、欧米諸国・西側の価値観で推し進めるのではなく、貧困や失業などその国の社会的要因を考慮しなければならないと指摘されています。同じことがAML/CFT対策にも言えるのではと考える訳です。

Reference: Corpora, Christopher A. "The untouchables: Former Yugoslavia's clandestine poitical ecnomy", Pugh, Michael. "Rubbing salt into war wounds: Shadow economies and peacebuilding in Bosnia and Kosovo", Problems of Post-Communism, 51(3), May/June 2004

日本に置き換えて考えると、日本政府はFATF勧告履行を進めるべく、警察庁が中心となって業界指導にあたっています。FATF勧告の肝は、金融機関・業界をはじめ、不動産、宝飾品業界など幅広い分野における顧客情報管理、疑わしい取引の報告と記録保存を義務付けていることにあります。例えば、銀座の高級ブランド店で、100万円の宝石をプレゼント用に買ったら、購入者の個人情報と購入記録は店に保存され、何か事があった場合、その情報は当局に報告されることになります。

廉価で購入できる金やダイヤモンドの産出国ならいざ知らず、輸入代理販売がほとんどの日本の宝飾品業界にも同じ義務履行を求めることにどれだけの意味があるのでしょうか。仕入れ価格が高くつく分、それを売却するロンダリングのうまみは少ないはず。むしろ、暴力団がしばしばペーパーカンパニーを使って売買・投資収益を上げている不動産業界に義務履行の徹底と情報収集協力を求めるべきでは。それが地域特性を考慮した対策だと考えます。

ボスニアやセルビアを比較分析の対象とするのは、両国が将来のEU加盟を目標にしているからです。また、以前も書きましたが、近年ボスニアには中東、中近東、アフリカなどからイスラム教徒の流入し続けており、テロ組織との結びつきなど社会の不安定化が懸念されています。その状況下、EU Homeland Securityはいかに追求されるべきかを考察するのが修士論文の目的です。

ボスニアやセルビアについて調べる際、セルボ・クロアチア語の壁にぶち当たるのは目に見えているので、フルブライト・ネットワークを駆使して、協力・助言を求めにサラエボ大学やベオグラード大学の教授を訪ねようと考えています。以下は、今後参考にしたい本や政府機関のリンクです。

学科長のJohn Doyle博士が編集した北アイルランドの治安対策に関する論文集
http://www.ria.ie/Publications/Books/History/Policing-the-Narrow-Ground--Lessons-from-the-Trans.aspx
北アイルランド警察
http://www.psni.police.uk/
ボスニア・ヘルツェゴビナの高等代表
http://www.ohr.int/

2010年11月16日火曜日

Derry/Londonderry

14日日曜日、北アイルランドのデリー/ロンドンデリーを日帰りで訪れました。ベルファストに次ぐ第二の都市とされますが、人口は約10万6000人。奇妙な静けさに包まれた街という印象を持ちました。

アイルランド北部にあり、街の西側で共和国と接する古都。Real IRAが活発な地域でもあります。北アイルランドではここ2-3年、未遂を含む爆破事件が多発していると報道されており、デリーでも10月に街北部のショッピングセンター近くで、自動車に仕掛けられた爆弾が爆発する事件がありました。クラスメートにデリーを訪れたことを話すと、「危険な雰囲気はなかったか」と気をもんでくれました。共和国の人も北の不穏な情勢を懸念しているようです。

街の中心部は、プロテスタントの入植者が17世紀初頭に築いた城壁で囲まれています。城壁の街というとクロアチアのドブロブニクを思い出しますが、壁はそれほど高くはありません。

午後12時半頃に中心部に着いたのですが、ショッピングモールは閑散としており、聞けば13時開店とのこと。城壁内の中心部は一時間もあれば十分歩いて回れる程度の広さです。モールは大小合わせ3か所ほどあり、夕方4-5時にはクリスマスセールを楽しむ買い物客で溢れていました。街中を歩きながらふと見上げると、通りには数メートル間隔で監視カメラが設置されていることに気づきました。

城壁の外には住宅地が広がります。カトリック住民が多い一角なのか、所々に共和国の国旗が掲げられています。城壁に展示されている大砲の背後から外側を眺めると、砲がちょうどその一角に向いていて、偶然とはいえ、少し暗澹たる気持ちに襲われました。

共和国国旗がはためく一帯には、紛争で亡くなったIRA/Sinn Fein関係者を弔う記念碑がいくつかあります。とりわけ象徴的な意味を持つのは、1972年1月30日に公民権を求めるカトリック住民が英国軍に殺害された「血の日曜日事件」のモニュメントです。
モニュメントの近く、英国軍に撃たれた数人が亡くなった場所の辺りに"Museum of Free Derry"があるのですが、この日は休日で見学できませんでした。また、この一角にはカトリック住民側から見た紛争をモチーフにした壁画が多く、行く人の目を惹きつけ、見つけるたびに足が止まりました。
街で接した人の印象はというと、やはりアイリッシュです。警戒するかのように、こちらをじっと見つめていると思いきや、一旦、言葉を交わすと優しく親切で、裏のない笑顔を見せてくれます。そしておしゃべり好き。ダブリンから空路で日帰りしたのですが、空港の往復に乗ったタクシーでは、話が途切れることはありませんでした。

ただ、言葉の端々や何気ない一言に共和国とダブリンへの対抗心や、英国への親近感が読み取れます。もちろん人によるのかもしれません。例えば、「ダブリンから来たのか?ダブリンは好きか?人が良いからな。でも、俺たちロンドンデリーの方がもっとフレンドリーだ」とか、「ロンドンで10数年働いていた。いい街だ。戻りたい」といった具合です。

付言すれば、街の名前も共和国の人の多くは「デリー」と言い、北アイルランドでは「ロンドンデリー」の呼び名が好まれているようです。

夕方、市役所を兼ねるギルドホール近くで18世紀から続くパブにブラリと入りました。中高年の男性客10人くらいがビールを飲みながら早口のおしゃべりに興じ、テレビのフットボール中継を見ては歓声を上げています。その姿と雰囲気はダブリンで見る光景と何ら変わりはありません。

午後6時半。空港へ行くのにタクシーを捕まえようと、買い物客が家路を急ぐ中心部を歩いていると、城壁の落書きに目が留まりました。

"PRIDE NOT PREJUDICE" 「偏見ではなくプライドを」

2010年11月13日土曜日

Terrorism, Transnational Crime and Corruption Center

先日、修士論文の提案書を提出しました。テーマはEU Homeland Securityについて。近い将来の加盟国拡大を視野に、マネロン・テロ資金供与対策を柱に政策を分析・検討したいと考えています。過去に紛争があり、国際的な組織犯罪活動が活発だった北アイルランドとバルカン諸国のケーススタディを提案してみたのですが、広範にわたり、言葉の壁もあるため、対象を絞らざるを得ないかもしれません。加えて、Homeland Securityなら当然、国境や出入国政策についても触れるべきであり、来年1月にスーパーバイザーが決まるまで、アイデアを煮詰めようと思っています。

これまでの過程で大変役立ったのが、米国バージニア州立のGeorge Mason Universityにある研究所"Terrorism, Transnational Crime and Corruption Center (TraCCC)"の論文やリンクでした。本ブログのお気に入りサイトの一つとしてブックマークしてあります。

http://policy-traccc.gmu.edu/index.html

同センターの創設者で主宰者のLouise Shelley教授はUniversity of Pennsylvaniaで社会学の博士号を取得、フルブライト奨学金でロシアへ渡った経験があり、旧ソ連諸国での組織犯罪に詳しい学者です。Shelley教授は私のフルブライト留学が決まった際に、同センターへ来るよう強く勧めてくれたのですが、当時、センターはAmerican UniversityからGeorge Masonへ移るさなかにあり、同大学の講義プログラムがそれほど豊富でなかったように思えたことから、周囲の勧めなどもあってGeorgetown SSPを選んだ経緯があります。

http://policy.gmu.edu/tabid/86/default.aspx?uid=76

にもかかわらず、研究滞在中に取材した時には適切なアドバイスをして下さり、大変助けてもらいました。そもそも国際的な組織犯罪とテロリスト・テロリズムの関係に興味を持ち、フルブライターになって今の生活を送れるのもShelley教授とTraCCCを知ったお蔭だと思っています。

研究分野の幅広さと活発さ、そしておそらく米国国務省とFBIと思われる政府当局との協力関係の強さには、日本の通信社のワシントン特派員も「日本の関係者はTraCCCには接触すべきだ」と評価しています。よくよく調べると、国際的組織犯罪とテロのほかに、紛争に関する研究も行われています。

昨日も大学の図書館からアクセスし、今後の研究の参考になりそうな論文や発表を片っ端からファイルに保存してきたところです。来秋には、Shelley教授とTraCCCに少しでも認めてもらえるような研究結果を残したいと願っています。

2010年11月9日火曜日

PKO and Intelligence

Reading Week明けの月曜日、Resolving & Managing Conflictの講義で国連PKOの概説がありました。先のエントリーで紛争介入・解決におけるintelligenceについて触れましたが、この日の講義でも取り上げられました。

担当教授で学科長のJohn Doyle博士は「ad-hocではあるが、intelligenceは当然活用されている。だが、アメリカやイギリスをはじめ、安全保障理事国のP5(Permanent Five)に限られるのが実情だ」とのことです。PKOは安保理決議によって実施されるためですが、派遣先相手国に関するintelligenceは意思決定レベルにとどまります。そして平和維持活動の現場レベルでは、情報交換・共有はあってもintelligenceは共有されません。

それもそのはずで、そもそもintelligenceは意思決定者decision makerのために、危険を冒して現場から集めた情報の分析と集約の産物だからであり、一国が易々と他国、ましてや危険を冒して現場に来ていない国に与えるわけがありません。そういう意味では、米国と英国の安全保障における同盟関係がいかに蜜月かという事実が理解できます。Georgetown SSP教授で、米国防大学 The National Defence Universityの教授でもあるRichard Russell博士が「Security Studiesは第二次大戦後、米国と英国で築き上げた」といっていたのを思い出しました。日本の政治家がしばしば「日米は強固な同盟関係にある」と手垢のついたフレーズを声高に叫びますが、それは東アジアやせいぜい太平洋地域においてのことにすぎません。

John Doyle
http://www.dcu.ie/info/staff_member.php?id_no=501
http://www.ria.ie/our-work/committees/committees-for-the-humanities-and-social-sciences/international-affairs-committee/biographies.aspx
Richard Russell
http://explore.georgetown.edu/people/rlr8/?action=viewgeneral
http://nesa-center.org/faculty/russell

話がそれますが、米英に関して言えば、国連安保理決議もなく、しかも、たった一本のガセ・ネタ元の情報で第二次イラク戦争へ突入したのは、戦略的に愚かとしか言いようがない訳です。この問題に関しては、intelligenceのpoliticization(政治化)にも原因があるのですが、ここでは触れません。

いずれにせよ、P5にはなりえない日本が他国から敬意を表される、頼りにされる存在となるために何をすべきか。あるいは、後方支援や資金援助、選挙監視と警察指導の現状のままでいいのか。憲法解釈・改正論議も重要ですが、その点に終始しない議論を期待したいです。

intelligence活動の80%はopen sourceの収集と分析と言われます。Doyle博士によると、それはPKOにも当てはまるとのことです。このクラスでは以前、「紛争の兆候をどう察知するか」という課題が出され、International Crisis Groupの"Grisis Watch"で一つの紛争国を取り上げて各自で分析しました。International Crisis GroupはNGOで、世界各地に調査員を派遣しており、アジアではタイ・バンコクに拠点があるようです。

Grisis Watchを見るとわかるのですが、まれに突っ込んだ情報が掲載されているものの、大体が報道や政府発表のまとめです。ネットでは国別に7年前まで遡って見られるので、中期的な情勢変化をつかむには良い目安となるかもしれません。ただ、Doyle博士は「Grisis Watchはopen source intelligenceとは呼べない」と指摘していました。

International Crisis Group:Grisis Watch
http://www.crisisgroup.org/en/publication-type/crisiswatch/2010/crisiswatch-87.aspx

2010年11月6日土曜日

Ripeness theory and intelligence

第1学期中間期の課題が本格化しています。国立ダブリン・シティ大学では、11月1日~7日まで"Reading Week"で、この間に日頃の遅れを取り戻し、エッセイの準備・執筆に充てます。先ほど、必修科目である"Resolving & Managing Conflict"のエッセイ2500語を書き終えました。Collierの"Greed or grievance"理論を取り上げた講義ですが、私が選んだ問題は「Zartmanの"Ripeness Theory"の強みと弱みについて紛争事例二つに当てはめて論じよ」というものです。

Ripeness Theoryとは、紛争介入・仲介において、"Mutual Hurting Stalemate""A Valid Spokesperson""a Way Out"を的確につかむことが和平交渉成功につながるとする理論です。簡単に説明すれば、「紛争当事者双方が、これ以上戦っても勝利は見込めないという状態の時に、自陣の状況を適切に伝えられる代表者を通じて話し合いを続け、機が熟した時、すなわちRipe Momentに交渉合意へ達する」とする必須条件を理論化したものです。

講義で必須論文だったUniversity of WolverhamptonのEamonn O'kane博士は北アイルランド紛争を例に、Ripeness Theoryには無理があると反論しています。すなわち、「HMSには1998年のGood Friday Agreement以前、90年代前半に達していた」「Zartmanの理論は一対一の紛争に当てはめられており、英国政府、Unionist、アイルランド政府、Sinn Fein、IRAと当事者が入り乱れた北アイルランド紛争で Valid Spokespersonを見出すのは困難である」などが論拠です。

私は課題エッセイの中で北アイルランド紛争を取り上げ、O'kane博士に反論しています。これまでに読んだChristopher Andrew博士の"The Defense of the Realm"には、一旦停戦を宣言したPIRAが1996年に英国でのテロ活動を再開させ、人的・経済的打撃を与えた一方、MI5をはじめとする英国側はロンドン地域のエネルギー施設破壊を狙ったテロを阻止し、PIRAの主要メンバーを逮捕しました。

しかも、MI5側はPIRAを徹底的に壊滅した、できた訳ではありません。むしろ、当時のメージャー内閣にアイルランド側との停戦へ向けた下準備を進めるよう進言しています。主要メンバーを逮捕され追い詰められたPIRAと、損害を被りつつ更なるテロを防いだMI5。結果は1997年のPIRAによる再度の停戦宣言と、翌1998年のGFAにつながっていきます。私は、1997年のこの時期が北アイルランドにおけるMHSであり、Ripeness Theoryの欠陥を補完して最終的な停戦合意へ導くのは、客観的な事象と証拠を分析し検討するintelligenceだ」と結論づけました。

Collier博士もそうでしたが、Ripeness Theoryを唱えたJohn's Hopkins University, SAISのWilliam Zartman教授もアカデミズム一筋の専門家です。まだ勉強を始めたばかりなので紛争介入・解決に明るくないですが、この分野でintelligenceの実務家出身の学者はほとんど目にしません。元CIAの分析官でGeorgetown, SSP教授のPaul Pillar博士の名前を教科書をで読んだくらいです。余談ですが、フルブライト客員研究中に、Pillar博士の「テロリズムとテロ対策」を受講しましたが、今振り返れば当時の無知と無学が残念でなりません。

日本政府が国連のPKOに自衛隊と警察官を派遣してしばらくが経ちますが、ロジスティックや警察訓練、金銭負担をするばかりでなく、intelligence活動、つまり派遣相手国・地域の情報収集と分析活動に力を入れてもいいと考えます。私は政治部記者ではないので、ひょっとしたら「すでに行っている」と批判されるかもしれませんが、取材結果や報道を見る限り、そうした実態は耳にしませんでした。覇権的な武力や絶対的な経済力がなくても、紛争解決のための道筋を提示できる能力のある国ならば、各国から尊敬されると思うのですが、理想論にすぎないでしょうか。

William Zartman
http://www.sais-jhu.edu/faculty/directory/bios/z/zartman.htm
Eamonn O'kane
http://www.wlv.ac.uk/default.aspx?page=15983
Paul Pillar
http://explore.georgetown.edu/people/prp8/

日本で無学だったために、Ripeness Theoryの"Mutual Hurting Stalemate""Valid Spokesperson""a Way Out"の学術的な日本語訳が分かりません。ご存知の方、こっそり教えて頂けると幸いです。

2010年10月15日金曜日

Irish or the US education

大学院第一学期が始まって3週目が終わりました。こちらの教授方法は、2007-08年に客員研究員(実態は客員学生)として過ごした米国のGeorgetown University, Security Study Program(SSP)とは大きく違うため、最初は戸惑ったのですが、慣れたと同時に自分のペースもつかめてきたところです。

所属している国立ダブリンシティ大学、Dublin City University(DCU), MA in International Security and Conflict Studies(MISC)は、John Doyle学部長に言わせると「"Security Studies"と"Peace Studies"のちょうど中間を学ぶイメージ」です。Security Studiesの大学院には前述のGeorgetown/SSPのほか、英国のKing's College, University of Londonが代表格のようです。実際、DCU/MISCにはSSPやKing'sにあるようなintelligenceを扱う科目がなく、大学院の性格とはいえ残念ではありますが、修士論文や各科目のエッセイに合わせて自分で学ぼうと考えています。

では米国式と何が違うのか‐‐。まずは、予習に課される読書量です。SSPでは毎週、どの科目も論文数本、本一冊、政府発表のレポートや雑誌の特集記事など、200-300ページを読んでいかなければならないのは当たり前でした。担当教授がシラバスにメニューをきっちり揃えてくれており、それらを読み込んだ知識を講義での議論で確かめるという具合です。一方、DCU/MISCでは、各科目で課される予習量は論文3-4本、ページ数にして100ページ以内が必修文献です。教授達はこれに加え、各週のテーマごとに参考図書や論文を10冊(本)程度、それぞれリストアップしてくれます。つまり、「このテーマに関心のある学生は、これらも頑張って読んで知識を深めて下さい」という訳です。欧米の教育関係者に聞いたところによると、こうした方法は欧州の大学院で一般的なようです。料理でいえば、コースメニューの米国に対して、プリフィックスもしくはアラカルトメニューの欧州というイメージでしょうか。

そして授業では、教授の講義に対して学生が競い合って意見を述べるだけの米国式とは違い、どの授業でもプレゼンテーションやディスカッションでグループワークも求められます。この点も欧州では一般的なようです。もちろん、張り合うように意見を言い合うのはこちらでも同じですが、情けないことにまだまだ互角に張り合えていません。さらに、中間や期末のレポート、エッセイの問題は学期の初期にあらかじめ知らせてくれます。SSPでは事前に個人で問題設定をして教授と打ち合わせたり、提出締め切りの約一か月前に問題が発表されていました。

その講義ですが、第一学期は必修ばかりで次の五科目を受講しています。
  • Resolving and Managing Conflict
  • Research Methods
  • International Security
  • Issues and Practices in Contemporary International Politics
  • International Law and the Use of Force
中でも、米国人留学生は「"Research Methods"のような授業はアメリカにはなかった」と驚いていました。またintelligenceの講義はないものの、"Resolving and Managing Conflict"や"International Law and the Use of Force"は学部やSSPで学ばなかった分野だけに、英語で理解するのは骨が折れますが、新しい分野を知る楽しさがあります。

例えば、"Resolving and Managing Conflict"の第一週で必修論文の一つだった、Paul Collier教授(オックスフォード大学経済学部)の"Economic Causes of Civil Conflict and their Implications for Policy"は、紛争が起きる国には共通の経済的要因があると説きます。それは、①急速な人口増加②例えばダイヤモンドのように、その国でほとんど唯一の輸出品③低教育普及率④人口の45%以上を占める一民族の存在などです。この論文は"Greed or Grievance"理論として知られ、「紛争が起きる要因は、経済的要因"Greed"が大きい」というその妥当性を巡って学会で議論を呼びました。

そのPaul Collier教授は世界銀行のディレクターも務めたエコノミストでもあります。
http://users.ox.ac.uk/~econpco/

講義でも、ある特定の紛争国に当てはめて考えよとの課題が出されました。1992年に崩壊した旧ユーゴスラビアに当てはめると、①急速な人口増加はなく②ある程度の工業国で観光資源に恵まれていたほか、競争力のある輸出品目はなかった③教育レベルは平均より高かったとみられる④セルビア、クロアチア、モスレム、スロベニア、アルバニア、モンテネグロ、マケドニアと人種は多数存在し、支配的な民族はなかったと言える。そもそも、スロベニアとクロアチアが相次いで独立したのも、セルビア民族主義の高まりに対する不満"Grievance"が強かったためで、妥当性はないと結論付けました。

ところが、Collier教授は同論文の中で、「1991-92年にスロベニアとクロアチアが相次いで独立を果たしたことでセルビア民族の支配率が高まりボスニア紛争になった」と分析しています。一見すると妥当なようですが、スロベニアとクロアチアが独立した段階でそれぞれ短期間ながら、旧ユーゴ軍・セルビア軍勢力との紛争が起きており、"Greed or Grievance"理論をボスニア紛争だけに当てはめるのは妥当性を欠くと考えます。

ただ、議論は別にして、経済学者の観点から紛争を分析する手法は新鮮でした。担当のJohn Doyle博士も「紛争は経済学だけでは分析しきれず、社会的、政治的な背景も合わせ見なければならない」と当然のことを述べながら、多角的なアプローチの必要性を学生に説いていました。ちなみに、"Greed or Grievance"理論の妥当性と非妥当性は中間期エッセイの問題の一つにもなっています。

その他、学生生活の一般的なことでいえば、図書館が遅くても22時までしか開いておらず、日曜・祝日は利用できない不便さが米国との違いですが、同様の感想をアイルランド・米国政府間の奨学金で留学した米国人学生達も抱いており、Irish Timesが特集記事で取り上げていました。

http://www.irishtimes.com/newspaper/education/2010/0928/1224279816040.html

2010年10月2日土曜日

Garda, Irish Police

Garda,アイルランド警察関係者と話す機会がありました。以下はそのメモ。
  • 職員は総勢約14000人。アイルランド共和国全体の治安維持と犯罪捜査を担う。国の規模が関係しているのだろう、米国や日本のような自治体警察制度ではなく、警察官としてGardaに入れば、国内の様々な地域へ配置され、任務にあたる。
  • 日本の警察のように、刑事捜査部門と警備・公安情報部門を有している。
http://www.garda.ie/
http://www.garda.ie/Controller.aspx?Page=40&Lang=1
  • 犯罪収益やマネーロンダリング捜査の専門部門もあるほか、入国登録・管理を担っている点も大きな特徴だ。
http://www.garda.ie/Controller.aspx?Page=28
http://www.garda.ie/Controller.aspx?Page=31&Lang=1
  • 制服警官は銃を携帯していない。
  • PSNI, Police Service of Nothern Ireland,北アイルランド警察との情報共有や協力関係は和平合意とその後のPower Sharing体制を受けて順調だという。既報の通り、ここ2-3年は和平合意に反対する勢力による事件が多く、犯罪者の抜け道となっている南北国境の捜査協力と強化が喫緊の課題だという。
http://www.psni.police.uk/
  • アイルランド外部、国際的にはInterpolとの情報共有や協力関係が深いという。関係者によると、アイルランド警察は北アイルランドを除く他国との情報共有にあまり積極的ではなく、公的情報やデータも外部に出さない傾向にあるという。この点は日本警察と似ているかもしれない。ただ、あくまでも表向きの話であり、捜査部局間や幹部レベルでは綿密な連絡と共有をしていると考えてもおかしくないだろう。
  • 参考までに、アイルランド軍は米軍との協力関係は緊密なようだ。アイルランドで接触した米軍関係者も「アイルランドにとって第一の同盟国は、(英国ではなく)我々米国である」と言い、その点はアイルランド人も共通認識を持っている。